進め方DXレベル 1

社長の頭の中にしかない仕事を、
言葉にする方法

2026.10.19

「その件は、社長が戻ってからでないと決められません」。電話口で社員がこう答える場面が多いなら、会社の大事な判断が社長の頭の中にしまわれているのかもしれません。長年の経験で身についた判断は会社の財産ですが、頭の中にあるうちは、社長が動けないときに会社も止まってしまいます。この記事では、社長の頭の中にしかない仕事を言葉にして、社員と分け合えるようにするための具体的なやり方をお伝えします。

なぜ社長の知識は言葉になりにくいのか

社長の判断の多くは、本人にとって「当たり前」になっています。当たり前のことは、わざわざ説明しようと思いません。

たとえば、急ぎの注文が入ったときに、受けるか断るかを社長が瞬時に決めているとします。社長の頭の中では、今の現場の混み具合、そのお客様との付き合いの長さ、材料の在庫、担当者の手の空き具合などを、無意識に重ね合わせています。けれども、社員から見えるのは「受ける」「断る」という結論だけです。

このように、経験から身についた、言葉にしにくい知識のことを「暗黙知(あんもくち)」と呼びます。暗黙知は、本人に「書いてください」と頼んでも、なかなか出てきません。書こうとすると、「ケースバイケースだから」で止まってしまうからです。

だからこそ、書く以外の方法で引き出す工夫が必要になります。

言葉にしないままだと何が起きるか

頭の中の知識をそのままにしておくと、日々の仕事にこんな影響が出ます。

  • 社長の手が空くまで、社員の仕事が止まる
  • 社員が判断を避けるようになり、指示待ちが増える
  • 社長が外出や出張の日に、確認の電話が鳴りやまない
  • 新しく入った人が、仕事を覚えるまでに時間がかかる
  • 社長自身が、本来考えるべき先のことに時間を使えない

そしてもう一つ、見落としがちな影響があります。社長の判断が言葉になっていないと、社員はその判断が正しいのかどうかを確かめようがありません。結果として、会社の判断の仕方が、社長一人の経験から先に育っていかないのです。

どの仕事から言葉にするかを決める

頭の中の仕事を全部書き出そうとすると、途方に暮れてしまいます。最初は対象を一つに絞りましょう。選ぶときの目安は次のとおりです。

  • 社員から確認を求められる回数が多い仕事
  • 社長が不在の日に、止まって困る仕事
  • 判断を間違えると、お客様やお金に大きく響く仕事

この3つに当てはまる仕事があれば、そこから手をつけます。逆に、年に一度しか起きない判断や、社長が今後も自分で持ち続けたい判断は、後回しでかまいません。

一つ選んだら、その仕事を「受付から完了まで」の流れで紙に書き、社長が判断している場面に印をつけておきます。印の場所が、これから言葉にしていく対象です。全体の流れの中で見ると、判断がどこで必要になるのかが分かりやすくなります。

頭の中の知識を引き出す3つの方法

書いてもらうのを待つのではなく、引き出す側が工夫します。ここでは、組み合わせて使える3つの方法を紹介します。

方法1:話して、それを文字にする

書くのが苦手なら、話すところから始めましょう。

社長が一つの仕事について、社員に説明するつもりで話し、それを録音します。スマートフォンの録音機能で十分です。録音した音声は、文字起こしの機能やサービスを使えば文章にできます。ただし、お客様の名前や取引の条件が話に出てくる場合は、そのサービスが音声をどう扱うかを先に確かめてください。不安なら、名前を「A社」などに言い換えて話せば十分です。

話すときのコツは、次の3つです。

  • 「最近あった具体的な一件」を思い出しながら話す
  • 結論だけでなく、そのとき何を見て、何を気にしたかを口に出す
  • うまく話そうとせず、思いついた順でかまわないと割り切る

一般論で話そうとすると、どうしても抽象的になります。「先週のあの注文のとき、どうして受けたのか」と具体的な一件から入ると、判断の材料が自然と言葉になって出てきます。

方法2:社員に質問してもらう

社長が自分から話すより、聞かれて答えるほうが、知識は引き出されやすくなります。

社員に聞き役になってもらい、次のような質問を投げてもらいます。

  • 「そのとき、最初に何を確認しましたか」
  • 「もし◯◯だったら、判断は変わりましたか」
  • 「迷ったときは、何を優先していますか」
  • 「やってはいけないことは何ですか」

特に二つ目の「もし◯◯だったら」は効果的です。条件を一つずつ変えて聞いていくと、社長が何を基準に判断しているのかが浮かび上がってきます。

聞き役は、その仕事をいずれ引き継ぐ予定の人に頼むのがおすすめです。質問しながら理解が進むので、記録づくりと引き継ぎを同時に進められます。

方法3:判断を「場合分け」で書く

話したり聞かれたりして出てきた内容は、最後に「場合分け」の形に整えます。

たとえば、急ぎの注文の判断なら、こんな形です。

  1. 納期まで、現場の予定に空きがあるか → なければ、ほかの案件の納期を動かせるかを確認する
  2. 必要な材料が手元にそろっているか → そろわなければ、仕入先に間に合うかを確認する
  3. 初めてのお客様か → 初めてなら、支払い条件を先に決めてから受ける
  4. 上のどれかで迷ったら → 社長に相談する

ポイントは、最後に「迷ったら相談する」という逃げ道を残すことです。全部を書き切ろうとすると、いつまでも完成しません。よくある場面の判断だけを書き、それ以外は相談に回す形で十分です。この形なら、社員が自分で判断できる場面が少しずつ増えていきます。

言葉にしたものを、使い続けるために

書き出した内容は、作って終わりにしないことが大切です。

まず、社員が実際にその手順で判断してみて、迷った点や足りない点を書き足していきます。社長が最初に話したときには気づかなかった条件が、使ううちに見つかるものです。

また、書いたものは社員の誰もが開ける場所に保存します。せっかくの記録が、誰かのパソコンの中に埋もれてしまっては意味がありません。社員が迷ったときにすぐ開ける場所に置くことで、はじめて使われる記録になります。

社長の考えが変わったときは、その都度書き直すことも忘れないでください。古い判断基準が残っていると、社員はそれに従って動いてしまいます。書き直した日付を一行添えておくと、どれが今の考えなのかが分かりやすくなります。

一度に全部の仕事を言葉にしようとする必要はありません。月に一つずつでも続けていけば、社長にしか分からない仕事は少しずつ減っていきます。

まとめ

  • 社長の判断の多くは「当たり前」になっていて、言葉になりにくい
  • 頭の中にあるままだと、社員の仕事が止まり、判断が育たない
  • 書くのが苦手なら、話して文字にする、社員に質問してもらう
  • 最後は「場合分け」で整え、迷ったら相談という逃げ道を残す
  • 書いたものは置き場所を決め、使いながら書き足していく

試しに、最近社員から確認を求められた件を一つ思い出し、そのとき自分が何を見て判断したかを、スマートフォンに向かって1分だけ話してみてください。

TaskMateでは、DXレベル1「頭の中社長」の状態から、業務の棚卸しを一緒に進めます。何から言葉にすればよいか迷う段階でもかまいません。DXレベルを相談するからお気軽にどうぞ。

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